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性的ディープフェイクの把握件数が半年で 123 件、前年通年を超えた

実在の人物から作られた画像に、来歴を確かめる層がない(警察庁)

事案日
2026-08-03
公開日
2026-08-03
発行
Lemma Critical Team
関連 Pack
Pack B · Regulatory

TL;DR

2026 年 8 月 3 日、警察庁は、未成年の性的ディープフェイク画像・動画をめぐり全国の警察が 2026 年 1〜6 月に把握した事案が 123 件にのぼると公表した。昨年同期の 60 件から倍増し、昨年 1 年間の 114 件をも半年で上回った。被害者の 9 割は中高生で、加害者の 7 割近くは同級生や同じ学校の生徒である。同じ 3 日には、実在の女性の写真を生成 AI で加工して性的画像を作成・投稿したとして、警視庁が会社員(32)を児童ポルノ禁止法違反(公然陳列)と名誉毀損の疑いで逮捕していたことが報じられ、作成を依頼した男子高校生(17)も書類送検する方針が示された。統計整備と捜査による検出は働いた。効かなかったのは、実在の人物を素材とする生成物について、その利用が本人に認可されたものかを、生成と公開の時点で確かめる層である。

何が起きたか

  • 警察庁の公表(2026-08-03)によれば、未成年の性的ディープフェイク画像・動画をめぐり全国の警察が把握した事案は 2026 年 1〜6 月で 123 件。昨年同期は 60 件で、半年で倍増した。昨年 1 年間の 114 件も上回っている。
  • 被害者の内訳は中学生が最多の 79 件、高校生 38 件、小学生 3 件、不明 3 件。9 割が中高生である。
  • 加害者は、被害者の同級生や同じ学校の生徒が 83 件と 7 割近くを占め、交流サイト(SNS)などで知り合った人物は 7 件だった。
  • これと前後して、警視庁が会社員の男(32)を 8 月 2 日までに逮捕していたことが 3 日に報じられた。実在する女性の写真を生成 AI で加工して性的な画像を作成し、SNS 上の掲示板に投稿して不特定多数が閲覧できる状態に置いたもので、容疑は児童ポルノ禁止法違反(公然陳列)と名誉毀損である。
  • 容疑者は調べに対し、加工した画像は約 300 枚、うち 100〜200 枚を実際に投稿したと供述している。さらに、そのうち半数は男子高校生から依頼されたものだったとも述べている。
  • 被害者は 20 代の女性 3 人と 40 代の女性である。40 代の女性については、中学生当時に撮影された写真が素材に使われた。児童ポルノ禁止法が適用されたのは、この点による。素材となったのはインターネットや SNS 上に存在していた実在の写真であり、入手経路は捜査中である。被害女性らと容疑者に面識はなく、一部は第三者によって違法にアップロードされていた画像から取得されたとされる。
  • 容疑者は生成 AI サイトに月額 3,000 円程度で会員登録していた。
  • 男子高校生(17)は、女性の写真を SNS に投稿して画像の作成を依頼したとされ、警視庁は同じ両容疑で書類送検する方針である。

被害は次の連鎖で成立している。

  1. 実在の人物の写真が、別の文脈でインターネット上に存在している。競技会の記録写真、学校行事の写真、SNS の投稿のほか、第三者が無断で再投稿したものもこれに当たる。
  2. その写真が素材として取得される。取得の時点で、本人の認可を確かめる工程は存在しない。
  3. 市販の生成 AI サービスで性的な画像へ加工される。生成の時点でも、素材となった人物の認可を確かめる工程は存在しない。
  4. SNS 上の掲示板などに投稿され、不特定多数が閲覧できる状態に置かれる。受け取った側は、その画像が実在の人物の写真から無断で作られたものか否かを、画像そのものからは判別できない。
  5. 被害の把握は、本人や周囲が気付いて申告するか、捜査によって発見された時点で初めて始まる。統計に現れるのはこの段階である。

時系列 — 公表と対応

  • 2025-12-18:警察庁が 18 歳未満の性的ディープフェイク被害について初めて統計を公表(2025 年 1〜9 月の相談 79 件)し、加害者の半数超が同じ学校の関係者であることを示した。あわせて被害・加害防止の広報啓発資料を公開。
  • 2026-08-03:警察庁が 2026 年 1〜6 月の把握件数 123 件を公表。昨年同期 60 件から倍増、昨年 1 年間の 114 件を半年で超過。
  • 2026-08-02 まで:警視庁が会社員(32)を児童ポルノ禁止法違反(公然陳列)と名誉毀損の疑いで逮捕(報道は 8 月 3 日)。作成を依頼した男子高校生(17)についても書類送検の方針を示す。

注:本 Brief の事実は、警察庁の公表を報じた通信社・全国紙の報道に基づく。逮捕された者は本 Brief 作成時点で被疑者であり、有罪が確定した者ではない。個人の氏名、居住自治体、および被害者の特定につながる細部は、構造の分析に必要でないため記載しない。本 Brief は個別の事件の断罪ではなく、実在の人物を素材とする生成物の来歴が生成と公開の時点で検証されない構造に焦点を当てる。

公表後の対応と業界の動きは次のとおり。

  • 日本には性的ディープフェイクそのものを直接処罰する単独の法律が整備されておらず、本件でも児童ポルノ禁止法(公然陳列)と名誉毀損という既存法の組み合わせで立件されている。加害の実態と条文の対応関係には隔たりが残る。
  • 依頼者の立件が並行して扱われたことは、生成を実行した者だけでなく、生成を発注した者にも責任を及ぼす運用が始まったことを示す。ただしこれも事後の帰責であり、生成の成立そのものを止める仕組みではない。
  • 警察庁は 2025 年 12 月以降、被害・加害の双方に向けた広報啓発資料を公開している。加害者の多くが同じ学校の生徒であるという統計上の特徴に対応した措置である。

なぜ止まらなかったか

この事案の失敗は、法の不備でも、捜査の遅れでもない。実在の人物の写真が生成の素材になる時点、そして生成物が受け手に届く時点のいずれにおいても、その利用が本人に認可されたものかを独立に確かめる層が無かったことにある。

検出は効いていた。警察庁は統計を整備し、事案を把握し、被害の内訳と加害者の関係性まで可視化した。捜査は作成者を逮捕し、依頼者にまで責任を及ぼした。効かなかったのはその手前——競技会の記録写真や学校行事の写真が素材として取り込まれる瞬間、そして加工された画像が投稿される瞬間に、その利用が認可された範囲に属するかを確かめる検証である。

被害者の 9 割が中高生で、加害者の 7 割近くが同じ学校の生徒であるという内訳は、この問題が匿名の攻撃者による遠隔の犯行ではないことを示している。素材となる写真は身近に存在し、生成能力は月額数千円で購入でき、投稿先は日常的に使われている場である。事後の摘発が届く範囲には限りがある。

同じ構造は、削除率 100% を達成してなお同一人物のモデルが再投稿された Brief 105(JAPRO 肖像・声の実態調査)、肖像の来歴が生成・公開の前に固定されなかった Brief 053(YouTube 偽の著名人)、既定の許諾状態が同意の証明として通用した Brief 050(Grok のディープフェイク同意) に連なる。成果物側に埋めた来歴印が除去も偽造もされうることは Brief 011(SynthID 透かし) が示している。いずれも、生成物が「本物らしく見える」ことと、その素材の利用が「いま認可されている」ことが別の問いであることを示している。

証明があれば、何が変わるか

事前証明(proof-as-auth)は、実在の人物を素材とする生成の一つひとつの行動の前に、本人の認可を独立に検証する層を経路に一段挟む。削除申請や事後の摘発を唯一の救済にせず、「この人物の肖像を、この用途で使ってよいか」を生成が成立する前に確かめる。答えが「認可の証明がない」であれば、生成も公開も事前に保留される。

Lemma がこの primitive に対して提示する設計は次の通りである。

  • 認可証明の生成前検証:肖像を素材とする生成を、素材の入手可能性ではなく、本人が発行した検証可能な認可証明に結び付ける。証明を伴わない生成要求は、成立の前に分別される。
  • 生成物への来歴バインド:生成物そのものに、素材の出所と認可の来歴を改ざん耐性のある形で結び付ける。受け手は、その画像が認可された素材から作られたものかを独立に確認できる。
  • 属性の選択的開示:「この利用は認可されている」という事実だけを、本人の身元や連絡先を渡さずに証明できる形にする。認可の確認のために被害者側の情報を集積させない。
  • 配布経路での事前検証:投稿・共有の経路に来歴検証を組み込み、認可の証明を欠く生成物が公開の場に載る前に止める。事後の削除ではなく、公開の成立を止める位置に検証を置く。

Lemma は生成物が偽物かを判定する製品ではなく、削除申請を代行するものでもない。射程は、肖像を素材とする生成と公開が成立する前に本人の認可を独立検証し、証明を欠く生成物の通過を事前に排除することにある。検出(統計整備、事案の把握、捜査と立件、削除申請)と、事前証明(生成と公開の前に認可を独立検証する証跡)は、代替ではなく補完の関係にある。前者は起きた被害の把握と救済に、後者は被害が成立する前の信頼確立に働く。設計の詳細は 「Proof-as-Auth: 鍵を一度も送らずにサインインする」(Lemma、2026-05)、適用範囲は Pillar 01 — 来歴証明 を参照。

Sources

「AI 時代のサイバー防衛に残された、最後の層」Pillar 01 — 来歴証明Brief 105(JAPRO 肖像・声の実態調査)Brief 011(SynthID 透かし)

本資料は公開情報の構造化分析であり、特定組織への監査・診断・推奨ではありません。

この Brief を引用する

Lemma Critical Team. (2026).
"性的ディープフェイクの把握件数が半年で 123 件、前年通年を超えた — 実在の人物から作られた画像に、来歴を確かめる層がない(警察庁)".
Lemma Critical Brief No.119. Lemma / FRAME00, Inc.
https://lemma.frame00.com/ja/critical/briefs/119-japan-sexual-deepfake-npa-h1-2026/
Lemma

確かめられないものを、
業務に入れない。

Lemma は、データや AI の実行に暗号技術で証明を付け、受け取った側が発行者に問い合わせることなく真正性を確認できるようにします。検出はそのままに、その前段へ一層を足す構成です。