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No. 155 Critical Brief · エージェント権限証明

TVING:開発者のキーで持ち出された開発プロジェクトの中に本番のキーがあり、利用者情報が流出した(韓国政府の調査結果)

キーの使用を、誰のどの作業かと照合する層が無い

3,954万アカウント
情報が流出したと調査団が確認した TVING のアカウント(休眠・退会・テストを含み、同じ人の重複を含む)。個人情報の詳しい規模は個人情報保護委員会が確定する
43本
持ち出された開発プロジェクト 361 件の中(ソースコードと設定値)にあった、本番環境に入れるキー。攻撃に使われたのはそのうち 2 本
05-29→05-31
開発環境に入られてから、利用者情報が大量に持ち出されるまで
国・地域韓国
事案日2026-05-29
公開2026-10-23
発行Lemma Critical Team
目次
  1. 01TL;DR
  2. 02何が起きたか
  3. 03時系列 — 公表と対応
  4. 04なぜ止まらなかったか
  5. 05対策するには
  6. 06Sources

TL;DR

  1. 01何が起きたか

    韓国の科学技術情報通信部(MSIT)は 2026 年 9 月 3 日、動画配信 TVING の侵害事故の調査結果を公表した。攻撃者は開発者の接続キーで開発環境に入り、開発プロジェクト 361 件をすべて持ち出した。その中(ソースコードと設定値)に、本番環境に入れるキーが 43 本あった。攻撃者はそのうち 2 本で本番環境に入り、データベースに入るための ID とパスワードを得た。そして 3,954 万アカウント(重複を含む)の利用者情報を外部へ持ち出した。

  2. 02なぜ検出で止まらなかったか

    1 回目の持ち出しは、データベースの CPU 使用率が 100% に跳ねた警報を受けて、TVING が止めた。翌日、攻撃者は別のキーでクラウドに仮想サーバを作り、そこから持ち出した。CPU 使用率は 10% 以内にとどまり、警報は鳴らなかった。

  3. 03欠けていた層

    負荷の監視は 1 回目を止めた。無かったのは、本番のキーが使われるたびに、それが誰のどの作業のための使用かを照合する層である。

何が起きたか

  • 当事者: TVING。韓国の動画配信サービス。
  • 調査: MSIT は 6 月 2 日に韓国インターネット振興院(KISA)と現場調査を始め、6 月 3 日に民官合同調査団を組んだ。キーが盗まれた経緯を調べるため、開発者の端末 9 台を解析(フォレンジック)した。侵入の経路は、セキュリティ機器・データベース・システムのログを突き合わせてたどり、5 段階に分けた(MSIT)。
  • 流出したソースコード: 開発プロジェクト 361 件(30.35GB)。おすすめ・検索のアルゴリズム、利用者の管理と認証、決済などを含む。開発環境への侵入は 2 回あり、1 回目に 14 件、2 回目に 361 件すべてが持ち出された。開発環境のキーは 2 本が使われた(MSIT)。
  • 流出した利用者情報: 3,954 万アカウント(ログインできるアカウント 2,206 万、休眠・退会 1,737 万、テスト 11 万。同じ人が最大 13 アカウントを持つ例を含む)。ID、一方向に暗号化されたパスワード、氏名、電話番号、メールアドレス、生年月日、本人確認に使う韓国の識別番号(CI)など 20 項目。電話番号の末尾 4 桁とメールアドレスの @ の前は暗号化されていたが、暗号化の鍵も一緒に流出したため、調査団は平文と同じと判断した(MSIT)。
  • 特定されていないこと: 最初の開発環境のキーがどう盗まれたか。調査団は、フィッシング、マルウェア、サプライチェーン攻撃、キーの共有、脆弱性の 5 つの筋を調べたが、特定できなかったとしている(MSIT)。
  • 調査団が挙げた問題点(MSIT):
    • 本番のキーが、ソースコードに直接書かれ(41 本)、設定値に平文で置かれていた(3 本、1 本は重複)。
    • すべての開発者に、すべての開発プロジェクトへの権限が与えられていた。キー 1 本でも、すべてのプロジェクトに届いた。
    • キーの発行・使用・変更・廃棄を管理する手順が無く、権限の無い者の接続を制御する方針も無かった(例として、接続元の IP の制限や多要素認証を挙げた)。
    • 監視は CPU の負荷などに頼り、ネットワークやデータの流れを見て止める仕組みが無かった。整っていれば、大量の流出には至らなかったと判断した。
    • 2024 年の模擬ハッキングで、キーがソースコードに直接書かれている点が見つかっていたが、直されていなかった。

用語メモ
TVING(ティービング) — 韓国の動画配信(OTT)サービス。
開発環境と本番環境 — 開発環境は、ソースコードを保管し、開発者が共同で直す場所。本番環境は、サービスを動かすクラウドのシステム(調査結果では AWS)。どちらも、入るには「接続キー」が要る。
接続キー — システムに入るための鍵の文字列。パスワードと同じく、持っている者は持ち主と同じ権限で使える。
仮想サーバ — クラウドの上で、必要なときに作って消せるサーバ。作る権限があれば、データの通り道にも使える。
民官合同調査団 — 韓国の科学技術情報通信部(MSIT)が、韓国インターネット振興院(KISA)などと組んだ調査団。

図表 1調査団が分けた 5 段階

止めどころは ③ と ⑤。本番のキーを使うときに、誰のどの作業のための使用かを照合していれば、申請された作業と結びつかないキーでは本番に入れず、仮想サーバも作れない。① のキーがどう盗まれたかは特定されていない。

攻撃者
1
開発者の接続キーで、開発環境に入る

5 月 29 日。キーの盗まれ方は特定されていない。

攻撃者
2
開発プロジェクト 361 件をすべて持ち出し、本番のキーを得る

キー 1 本でも、すべてに届く権限だった(調査団)。

攻撃者
3
本番のキーで本番環境に入り、データベースの ID とパスワードを得る

平文で置かれていたと調査団は指摘した。

攻撃者
4
1 回目の持ち出しを試みる

5 月 30 日。CPU 100% の警報で止められる。

攻撃者
5
別のキーで仮想サーバを作り、24GB を外部へ送る

5 月 31 日。警報は鳴らず、サーバは後で消された。

時系列 — 公表と対応

  • 模擬ハッキングで、接続キーがソースコードに直接書かれている点が見つかる。調査団によれば、直されていなかった。
  • 14 時 42 分から、開発環境の接続キーで開発環境に入られる。15 時 15 分からは本番環境(AWS)にも入られる。
  • 9 時 22 分から 1 回目の持ち出しが試みられる。18 時、データベースの CPU 使用率が 100% に達して警報が出る。TVING は警報を見て、その作業を止めた。調査団によれば、この異常の兆候から約 14 時間後に、情報保護の専任組織と CISO に状況が共有された。
  • 10 時 10 分、本番のキーが盗まれ情報が流出した疑いが、情報保安チームに伝わる。19 時から 22 時 20 分、別のキーで作られた仮想サーバから、利用者情報が外部に送られる。調査団は、このときの CPU 使用率は 10% 以内で、攻撃者が警報を避けるために使用率を抑えたと判断した。
  • 15 時 8 分、TVING が KISA に届け出る。TVING は事故に気づいた時点を 5 月 31 日 15 時 9 分と届け出たが、調査団は 10 時 10 分と判断し、そこから法の定める 24 時間を過ぎたとした。
  • MSIT が調査結果を公表する。

事実は、MSIT が 9 月 3 日に公表した民官合同調査団の調査結果(一次)に拠る。時刻と件数も同じ資料による。個人情報の詳しい流出規模は、個人情報保護委員会が分析の後に公表するとしている。調査結果の公表時点で、利用者への被害や、ダークウェブでの売買の兆しは確認されていない。

対応

  • TVING: 6 月 3 日から被害相談の窓口を開いた。持ち出されたソースコードの脆弱性を、民間のセキュリティ会社に診断させている(MSIT)。
  • MSIT: 届け出の遅れに過料を科す予定。TVING に 9 月中に再発防止の計画を出させ、10〜12 月の実施を 2027 年 1 月から点検する。足りない点には是正を命じるとした。

なぜ止まらなかったか

この事案の失敗は、キーが盗まれたことだけではない。本番のキーは、持っている者をそのまま通し、誰のどの作業のための使用かは、使うときに問われなかった。

この事案の核心
本番のキーは、持っている者を通した。誰のどの作業のための使用かは、使うときに問われなかった。
図表 2検出と証明の落差

ここでいう証明は、本番のキーで影響の大きい操作をする前に「誰の、どの作業のための使用か」を照合し、記録に残すこと。検出は、負荷などの異常から、起きている操作に気づくこと。

証明の層 · 今回なし使う前に、誰のどの作業かを照合する
落差別のキーで、
仮想サーバが作られた
検出の層 · 1 回目を止めたCPU 100% の警報で作業を止める
STEP 1
キーが取られる
STEP 2
本番に入る
STEP 3
05-30 警報で止める
STEP 4
05-31 別のキーで持ち出し

検出は 1 回目を止めたが、見ていたのは CPU の負荷だけだった。「キーを持っている」と「この人が、この作業のために使う」は別々の事実で、前者を後者と照合する層が無かった。この隔たりが検出と証明の落差であり、構造的な欠落である。

同じ構造は、Studio の事案(データと一緒に、それを復号する鍵も読まれた)にも現れている。

対策するには

本番のキーで影響の大きい操作(仮想サーバの作成、データの一括の読み出しなど)をするときは、そのたびに、誰のどの作業のための使用かを照合する。そうすれば、コードからキーを取られても、申請された作業と結びつかない操作は通らない。検出の代わりではなく、検出の手前に置く層である。

注意したい業界・業務

業界メディア・コンテンツ
会員と決済の情報を長く持つ動画・音楽の配信サービス。今回のデータベースは 2011 年からの情報を持ち、休眠・退会したアカウントも含んでいた。
業界開発者・エージェント運用
開発者が多く、キーを手元やコードに置きやすい組織。調査結果では、コードの中の 43 本とは別に、開発者 8 人の端末から開発環境のキー 37 本と本番のキー 52 本が見つかった。
業務アカウント・権限の管理
開発者とキーに与える権限の範囲と、キーの発行・廃棄の管理。
業務照会・参照
データベースの一括の読み出しと、その ID とパスワードの置き方。

いまの対策で防げるか

対策今回理由
漏れたキーの無効化一部分かったキーは止まる。ただ、プロジェクトの中のキーは 43 本あり、2 回目は 1 回目と別のキーが使われた。
CPU の負荷の監視一部1 回目は止めた。2 回目は使用率が 10% 以内にとどまり、警報は出なかった。
接続元の制限・多要素認証一部調査団は接続を制御する方針が無かったと指摘した。入口は狭まるが、入った後に何に使うかは問わない。
模擬ハッキング一部2024 年にキーの置き方は見つかっていた。見つけることと、使わせないことは別である。
対策必要になるもの
  1. キーをコードに置かず、持ち主と担当に結びつける。開発者のキーは、担当するプロジェクトにだけ届くようにする(調査団の指摘のとおり、必要最小限)。
  2. 影響の大きい本番の操作は、そのたびに誰のどの作業かを照合してから通す。仮想サーバの作成や、データベースの一括の読み出しは、作業の申請と結びつかなければ、キーが正しくても通さない。通すときも期限を区切る。
  3. キーの発行と使用を、使う側とは別に残す。誰のどの作業で、どのキーが何をしたかを、後から照合できる形、つまり証明として残す。
点検点検チェックリスト

開発と本番のキーについて、組織で確認する 3 項目

  • ソースコードや設定ファイルに、本番のキーやデータベースのパスワードが平文で残っていないか。
  • 開発者のキー 1 本で、すべてのリポジトリに届く設定になっていないか。
  • 大量の読み出しや仮想サーバの作成に、負荷の監視のほかにも気づける手段があるか。

注:開発者本人の端末ごと乗っ取られ、作業の申請まで偽装された場合は、この照合を通りうる。最初の開発環境のキーがどう盗まれたかは、調査団も特定できていない。続報で判明すれば、この Brief を改訂する。

Sources

  1. 一次・政府の調査結果科学技術情報通信部 MSIT「티빙(TVING) 침해사고 조사결과 발표」(TVING 侵害事故の調査結果の発表、2026-09-03)korea.kr/briefing/pressReleaseView.do

参照: 「AI 時代のサイバー防衛に残された、最後の層」

ほかでも起きている同じ手口「アカウント乗っ取り」の事例 12 件を一覧で見る この手口が自社で通らないか、セルフチェックする(登録不要)

本資料は公開情報の構造化分析であり、特定組織への監査・診断・推奨ではありません。

この Brief を引用する

Lemma Critical Team. (2026).
"TVING:開発者のキーで持ち出された開発プロジェクトの中に本番のキーがあり、利用者情報が流出した(韓国政府の調査結果) — キーの使用を、誰のどの作業かと照合する層が無い".
Lemma Critical Brief No.155. Lemma / FRAME00, Inc.
https://lemma.frame00.com/ja/critical/briefs/155-tving-developer-key-hardcoded-production-keys/
Lemma

確かめられないものを、
業務に入れない。

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