要点
公開当初の方針は、許諾の確認を生成の前ではなく、権利者が後から拒否を申し出ることに任せていた。公開直後から、著名な著作物のキャラクターを含む動画が生成されて SNS で広がり、MPA やアーティストの批判、CODA と日本政府の要請が続いた。出力ごとの違反の判定や権利者の異議は、生成と拡散の後に働き、広がった出力を回収するところまでは届かない。「拒否されていない」ことは「許諾されている」ことではないので、著作物を使う生成は、生成の前に許諾の記録を照合しない限り、許諾の無いものも生成され、拡散の後にしか問えない。
実行の前の照合=生成の前に、素材についての権利者の許諾を照合し、記録に残すこと。検知=生成と拡散の後に、出力の違反や権利者の異議で見つけること。下の日付は、表明と報道に基づく経過である。
公開直後から SNS で拡散した
通った操作
- 通った操作
- 権利者が明示的に拒否(opt-out)していない著作権キャラクターを含む動画の生成。公開直後から、Pikachu・SpongeBob・South Park の全編風などが容易に生成された(報道)。
- 受け付けた側に届くもの
- 一般に、opt-out の方式では、生成の条件は「拒否の申し出が無い」ことで、権利者の許諾があることではない。生成の時点で、どの素材を、どの許諾で使ったかは、出力からは分からない。
- CODA の指摘
- 学習の過程での複製が著作権侵害になり得るとし、One Piece・鬼滅の刃・ポケモン・マリオなどに酷似する出力を問題視した。opt-out の方式は同意の負担を逆転させ、日本の著作権の原則(事前の許諾)に反すると指摘した(CODA)。
- 公表されていないこと
- 学習データの具体的な構成と、個別の許諾の状況。
実行前の照合
経路を問わず区別できる条件は、著作物を使って生成する前に、その素材について、この用途への権利者の許諾があるかを、拒否の申し出の有無とは別に照合することである。
「拒否されていない」ことは「許諾されている」ことではないので、著作物を使う生成は、生成の前に許諾の記録を照合しない限り、許諾の無いものも生成され、拡散の後にしか問えない。
- 誰が承認を出すか
- 素材の権利者。どの作品・キャラクターを、どの用途に使ってよいかを、許諾として示す。
- どこで照合するか
- 生成のサービスが生成を実行する手前。著作物を使う生成は、許諾の記録と照合し、許諾が無い・用途が合わないものは生成しない。
- 何が残るか
- どの生成を、どの権利者の、どの許諾の照合を通して実行したかの記録。権利者や当局から異議を受けたときに、どの生成が何に基づいたかを辿れる。
出力ごとの違反の判定と権利者の異議の窓口は、被害の把握と是正に要る対応で、本 Brief はその役割を否定しない。ただ、許諾の確認が生成の後に置かれる限り、対応は拡散の後になる。公開されていることが、学習や生成に使ってよいことを意味しない型の事案に Discord(公開 API で集めたメッセージの公開)、肖像の来歴が生成・公開の前に照合されない型の事案に YouTube(著名人を装った合成動画の広告)がある。
Lemma でできること
Lemma は、実行前の照合を、生成のサービスが生成を実行する手前に置く。出力が著作物に似ているかを判定するのではなく、生成に使う素材について、この用途への権利者の許諾があるかを、生成の前に照合する。
注意したい業界・業務
- 業界AI
- 画像・動画を生成するサービスの提供者。生成の既定を「拒否が無ければ使う」とするか「許諾があるものだけ使う」とするかが、権利者・業界団体・政府との論点になる。
- 業界メディア
- 作品とキャラクターの権利を持つスタジオ・出版社・ゲーム会社と、生成 AI で作った画像・動画を使う制作の現場。事前の許諾を原則とする法域では、opt-out で足りるかが問われる。
いまの対策と Lemma の違い
今回の経路は、1 列目(権利者が拒否を申し出ていない著作権キャラの生成)である。
| 対策 | 権利者が拒否を申し出ていない著作権キャラを生成する | 権利者が拒否を申し出た著作権キャラを生成する | 生成済みの動画が SNS で拡散する |
|---|---|---|---|
| 権利者の拒否の申し出(opt-out) | 効かない | 一部 | 関係しない |
| 出力ごとのコンテンツ違反の判定 | 一部 | 一部 | 関係しない |
| Lemma(実行の前の照合) | 一部 | 一部 | 関係しない |
opt-out の申し出は、申し出た権利者の作品にしか働かず、申し出ていない作品の生成は既定で通る。出力ごとの違反の判定は、既知の保護対象に似た出力を止めるが、判定の対象は生成の結果で、許諾の有無ではない。Lemma は、「拒否が無い」ではなく「許諾がある」ことを生成の条件にするので、申し出の有無にかかわらず、許諾の記録が無い素材の生成を止める。どの素材を使う生成かを特定できる範囲で働き、生成済みの動画の拡散を止めたり、消したりはしない。
注:Lemma の照合が働くのは、生成のサービスが、生成を実行する手前に照合を組み込み、権利者が許諾を記録として出している場合に限る。自由な指示文から、出力が特定のキャラクターに似るかを判断するのは Lemma の役目ではなく、使う素材を特定できない生成は照合を通り抜けうる。許諾の記録の鍵が漏れれば通りうる。表は何を照合しているかの比較で、今回の事案で止まったかどうかを示すものではない。Lemma は、侵入を検出・防止するものではない。
生成 AI で著作物を扱う組織で確認する 3 項目
- 生成のサービスの既定は、許諾がある素材だけを使う形になっているか。
- 権利者からの許諾を、作品・用途・期間と結び付けて記録しているか。
- どの生成を、どの許諾に基づいて実行したかを記録し、異議を受けたときに辿れるか。
事実と時系列
- 対象
- OpenAI の動画生成 AI「Sora 2」と、その権利管理の方針(公開当初は opt-out)。
- 公開当初の方針
- 権利者が明示的に拒否(opt-out)しない限り、著作権キャラクターを含む動画を生成できる方針だった。公開直後から、Pikachu・SpongeBob・South Park の全編風など、著名な著作物が容易に生成された。
- 批判
- 著作権キャラの動画が公開直後から拡散し、米国の Motion Picture Association(MPA)やアーティストを含む広い批判が出た。
- 方針の変更
- OpenAI は公開から約 3 日で、著作権キャラの生成にはあらかじめ許諾を要する事前許諾(opt-in)の方式へ移すと表明した。Sam Altman は、権利者へのより細かな制御と、opt-in した権利者との収益分配にも言及した。Family Guy・South Park などのキャラは以後コンテンツ違反となり、Martin Luther King Jr. など、遺族の異議を受けて特定の人物の生成も停止された。
- CODA の要求
- CODA(スタジオジブリ・バンダイナムコ・東映アニメーションなどを含む)は、学習への無断使用の停止を求めた。学習の過程での複製が著作権侵害になり得るとし、One Piece・鬼滅の刃・ポケモン・マリオなどに酷似する出力を問題視し、opt-out の方式は日本の著作権の原則(事前の許諾)に反すると指摘した。
- 日本政府の要請
- 日本政府は OpenAI に、著作権侵害となり得る行為を控え、事前に権利者の許諾を求めるよう正式に要請した。
用語メモ
opt-out(事後の拒否) — 権利者が自分から拒否を申し出ない限り、使ってよいとする方式。Sora 2 の公開当初の方針。
opt-in(事前の許諾) — 権利者があらかじめ許諾したものだけを使う方式。OpenAI が公開から約 3 日で移すと表明した。
CODA — コンテンツ海外流通促進機構(Content Overseas Distribution Association)。スタジオジブリ・バンダイナムコ・東映アニメーションなどが加わる。
時系列
- OpenAI が Sora 2 を opt-out の方針で公開する。公開直後から著作権キャラを含む動画が SNS で広がり、MPA・アーティストなどから批判が出る。
- OpenAI が、著作権キャラについて opt-in(事前許諾)の方式へ移すと表明し、収益分配に言及する。特定の人物(MLK Jr. など)の生成も、遺族の異議を受けて停止される。
- CODA が、学習への無断使用の停止を求める。
- 日本政府が OpenAI に、事前に権利者の許諾を求めるよう正式に要請する。
「opt-out から opt-in への変更」と「特定の人物の生成の停止」は、OpenAI の表明と国際報道に拠る。学習データの具体的な構成と個別の許諾の状況は公開された情報が限られ、本文では断定しない。日本の著作権法の解釈と侵害の最終の判断は、権利者・当局・司法に委ねられる。公表されていないことは、対策が無かったことを意味しない。
公表後の対応
- OpenAI: 公開当初の opt-out の方針を、約 3 日で著作権キャラの opt-in(事前許諾)の方式へ改めると表明した。権利者へのより細かな制御と、opt-in した権利者との収益分配に言及し、特定の人物の生成も停止した。
- CODA・日本政府: CODA は学習への無断使用の停止を求め、opt-out が事前の許諾の原則に反すると指摘した。日本政府は OpenAI に、事前に権利者の許諾を求めるよう正式に要請した。
- MPA: 米国の MPA も、opt-out の方針を批判した。
Sources
- The Register: “Japan asks OpenAI to keep Sora 2’s hands off anime IP”(2025-10-15、CODA・日本政府の要請・著作権キャラの拡散) — https://www.theregister.com/2025/10/15/japan_openai_copyrighted_anime/
- Copyright Lately: “Sora, Not Sorry: OpenAI Backtracks on Opt-Out Copyright Policy”(opt-out→opt-in 反転・特定生成の停止・収益分配の言及) — https://copyrightlately.com/openai-backtracks-sora-opt-out-copyright-policy/
- EU IP Helpdesk (European Commission): “Japanese government requests OpenAI avoid copyright infringement (Sora 2)“(2025-10-23、日本政府の正式要請) — https://intellectual-property-helpdesk.ec.europa.eu/news-events/news/japanese-government-requests-openai-avoid-copyright-infringement-sora-2-us-federal-judge-dismisses-2025-10-23_en