Lemma Critical Brief · No. 001

KelpDAO / rsETH 不正アンロック

DVN 観測層への RPC 改ざん攻撃

Pillar 01 · 来歴証明 Bridge Config Trust Identity & Auth
事案日
2026-04-18
公開日
2026-05-29
発行
Lemma Critical Team
関連 Pack
Pack AIncident Response

TL;DR

2026 年 4 月 18 日、KelpDAO のクロスチェーンプロトコル上で 116,500 rsETH(被害規模約 ¥460 億)が不正にアンロックされた。LayerZero Labs の RPC クラウド環境への侵入を起点とする攻撃で、内部 RPC ノードが改ざんされることで LayerZero Labs DVN が参照するメッセージ観測結果が操作された。DVN 署名鍵そのものは侵害されていない。1-of-1 単一 DVN 構成のもと、改ざんされたデータに対する正規署名が単独で承認資格を持ち、偽 cross-chain メッセージが accept された。LayerZero Labs は同年 5 月、本事案の incident statement と続報を公開し、「observation layer」を独立カテゴリとして命名している。


事案概要

  • 被害規模: 116,500 rsETH(約 $292M、当時レート約 ¥460 億)が不正アンロック
  • 対象プロトコル: KelpDAO(rsETH リキッドリステーキング)
  • 基盤: LayerZero v2 を介した cross-chain message
  • 被害認識: 2026-04-18
  • 攻撃の起点(LayerZero Labs 公表に基づく): LayerZero Labs オペレーション環境への侵入(2026-03 期、社会工学を経由した経路が指摘されている)
  • 改ざんされた資産: LayerZero Labs の内部 RPC クラウド環境(複数の内部 RPC ノード)
  • 侵害されなかった資産: LayerZero Labs DVN 署名鍵そのもの
  • 公式情報: LayerZero Labs incident statement および 5 月の続報 update。「observation layer」の独立カテゴリ化と、LayerZero Labs DVN の 1-of-1 構成署名拒否・3-of-3 default 化を含む

タイムライン

  • 2026-03 期(LayerZero Labs 公表に基づく推定): 社会工学を起点とする LayerZero Labs オペレーション環境への侵入が指摘されている期間
  • 2026-04-18: KelpDAO の rsETH 116,500 が不正アンロック
  • 2026-04-22 前後: 業界 incident response 開始
  • 2026-05 月: LayerZero Labs が incident statement と続報 update を公開。「observation layer」の独立カテゴリ化、LayerZero Labs DVN の 1-of-1 構成署名拒否ポリシー、3-of-3 default 化を発表

攻撃ベクター

LayerZero Labs 公表に基づく chain:

  1. Initial compromise: LayerZero Labs オペレーション環境への侵入(社会工学を起点とする経路が指摘されている)
  2. Lateral movement: 侵入した攻撃者が LayerZero Labs の RPC クラウド環境内の内部 RPC ノードを改ざん
  3. Detection evasion(観測層の分裂): 改ざんされた内部 RPC ノードは、監視ツールに対しては正常応答を返し、LayerZero Labs DVN の署名サービスに対しては改ざんされた応答を返す二面構成
  4. DoS による quorum 強制: 外部 RPC プロバイダーへの DoS により、DVN 署名サービスが結果的に侵害された内部 RPC ノードのみを参照する状態に陥る(failover が poisoned RPC 側へ寄った)
  5. 正規署名 × 改ざんデータ: DVN は改ざんデータに対して正規の署名プロセスを実行。署名鍵そのものは攻撃を受けていないが、署名対象となる入力データが操作されているため、結果として偽メッセージへの「有効な」証明が生成される
  6. Impact realization: 1-of-1 単一 DVN 構成のもと、この単一証明が KelpDAO 側で承認資格を持ち、rsETH 116,500 が unauthorized unlock として実現

構造的論点

本事案は、cross-chain bridge において verifier が「メッセージの origin」を判断する際に参照する入力(観測層)に対する独立検証手段が欠落していた という構造の代表事例である。Observation layer の入力(本事案では LayerZero Labs DVN が参照する RPC 応答)が、単一の主体(侵害されたオペレーション環境内の RPC ノード)で操作可能な状態に置かれていた。

同じ構造の隣接事案として、5 月の Stake DAO vsdCRV 不正ミント(Brief 002)がある。共通する構造は cross-chain bridge の信頼設定が単一主体の支配下にある点。差異は、本事案が DVN 観測層への RPC 改ざんを通じて trust を歪めたのに対し、Stake DAO 事案はデプロイヤー秘密鍵による LayerZero v2 trust source 直接書き換えを通じて trust を歪めた点にある。両事案は別ベクターから同一構造に到達している。

LayerZero Labs は incident statement で本構造を「observation layer」として独立した運用カテゴリと位置付ける方針を示した。観測層を硬化させる方針(quorum・多重化・人手 review)と、message 自体に独立検証可能な暗号証明を埋め込む方針は、対立軸ではなく補完関係にある(後者の議論は 「2026 年のブリッジ事象が示しているもの — 来歴証明というカテゴリについて」(Lemma、2026-04)を参照)。


Detection 層では届かない構造的 gap

本事案では、DVN 署名鍵そのものは侵害されておらず、署名プロセスも正規であった。検出側の典型的観測点(署名鍵の異常使用、署名サービスの誤動作)は機能しにくい構造であった。攻撃が成立したのは観測層の入力データが操作されたためであり、署名プロセス自体は仕様通りに動作していた。

検出層強化のみでは構造的に届きにくい gap が本事案で露呈した。「99.7% で異常」型の信頼度スコアは、本事案のように「正規プロセスが操作された入力に対して正規署名を出した」事案では発火しにくい。これは検出ツール / 検出ベンダーの設計が劣っているのではなく、検出と立証(規制報告・行政手続き・訴訟での「許可されていない権限行使があった」立証)の間に独立した層が必要であることを示している。検出は依然として重要な層であり、本事案でも事象後の blast window を狭め、影響範囲の同定に貢献した。

事前証明(pre-execution attestation)は、検出に対する代替ではなく 補完 の関係にある。取引前に「メッセージの出所」を独立に検証可能な形で証跡化することで、検出 + 事前証明の二段構成で trust boundary を確立する設計が成立する。Observation layer に改ざんが入っていても、message に埋め込まれた origin proof は別系統で「この message は正規の origin から来た / 来ていない」を verifier に告げる(検出と事前証明の関係についての詳細な議論は 「AI 時代のサイバー防衛に残された、最後の層」(Lemma、2026-05)を参照)。


対応経緯と業界動向

LayerZero Labs(2026-05 月 incident statement 公開時):

  • LayerZero Labs DVN は今後、1-of-1 構成での署名を拒否
  • LayerZero v2 default は ≥3-of-3 DVN 構成
  • クラウド環境を全面再構築、短命 credentials、IAM 変更は複数人 review
  • 独立 RPC ソース quorum を必須化、RPC プロバイダー・ホスティング環境・地域の多重化
  • 業界パートナー数百社に対して 4 週間にわたり security posture 強化の支援を実施、継続予定

Lemma による分析

本事案で露呈した構造的 gap(observation layer 入力の独立検証不在)に対して、Lemma は cross-chain message 自体に独立検証可能な暗号証明を埋め込み、verifier が observation layer の入力(RPC 応答、config 表明)に依存せず message の origin を独立検証できる設計を提示している。Observation layer が改ざんされた状態でも、proof は別系統で「この message は正規の origin から来た / 来ていない」を verifier に告げる構造である。設計の詳細は 「2026 年のブリッジ事象が示しているもの — 来歴証明というカテゴリについて」(Lemma、2026-04)、リファレンス実装は verifiable-origin proof sample(GitHub)を参照のこと。


Sources

Cite this Brief

この Brief を引用する

Lemma Critical Team. (2026).
"KelpDAO / rsETH 不正アンロック — DVN 観測層への RPC 改ざん攻撃".
Lemma Critical Brief No.001. Lemma / FRAME00, Inc.
https://lemma.frame00.com/ja/critical/briefs/001-kelpdao-rseth/

Brief 配布について

Lemma Critical Brief は Lemma が発行する threat intelligence brief です。本資料は公開情報の構造化分析であり、特定の組織への監査・診断・推奨ではありません。意思決定の参考として用いる場合は、貴組織の Lemma Critical 担当に直接ご相談ください。